研究内容
プロジェクト2
代謝制御性アミノ酸シグナルを同定する
私たちは、低タンパク質栄養状態に応答した肝臓の脂肪蓄積機構を解明するために、培養肝細胞を用いたin vitroの実験系で検討を進める過程で、肝細胞を、アミノ酸を含まない培地で培養するだけでインスリン非存在下でも脂質合成が亢進し、細胞内の中性脂肪量が増加することを見出しました(Nishi et al. Sci. Rep. 2018, 2020)。つまり、「細胞が自律的に細胞外のアミノ酸濃度の低下に応答して脂質蓄積を促進させる」ことを発見しました。この系に、特定のアミノ酸だけを欠乏させたり、逆に添加したりした培地で肝細胞を培養したところ、培地の種類ごとに異なる量の中性脂肪が細胞中に蓄積し。これらの結果は、肝細胞が細胞外のアミノ酸の組成の変化に応答して脂質代謝が調節されることを示しています。これまで、アミノ酸が引き起こす生理活性に関する研究は、薬理的作用が注目されてきましたが、このように物質代謝をある方向に調節し恒常性を維持するアミノ酸のシグナルを、今回、私たちは『代謝制御性アミノ酸シグナル』と命名し、その本態の解明に挑んでいます。
オルニチンが伝達する代謝制御性アミノ酸シグナル
これまで私たちは、タンパク質欠乏食を給餌すると糖新生活性が低下することを明らかにしています(Toyoshima et al. J.Mol.Endocrin. 2010, 2020)。また、そのようなラットの肝臓で糖新生の律速酵素であるG6Paseの遺伝子の発現が有意に減少していました。そこで、肝臓細胞をアミノ酸が含まれるFull培地とアミノ酸が全く含まれないZero培地で培養したところ、Zero培地での培養によってG6Paseの遺伝子のmRNA量が抑制されていました。続いて、G6Pase遺伝子のmRNAを増加させるアミノ酸を探索したところ、オルニチンにはG6Paseの遺伝子の転写を誘導する活性を持つことを示しました(Fukushima et al. iScience 2021)。オルニチンのこの活性は、既知のアミノ酸シグナルであるmTORC1の経路を介さないことを示しており、未だ明らかになっていない新規シグナルが駆動していると考えられました。現在では、オルニチンは超低密度リポタンパク質(VLDL)の構成分子であるApoB遺伝子の転写も促進することを明らかにしています(Nishi et al. BBRC 2025, 2020)。

他にも低リジン食給餌によって誘導される骨格筋への脂肪交雑、必須アミノ酸欠乏によって誘導される成長遅滞など低タンパク食によって誘導される様々な表現型のほとんどでアミノ酸シグナルの存在が示唆されており、本研究室では、現在代謝制御性アミノ酸シグナルの同定に力を注いでいる。
研究内容:目次 | プロジェクト1(高品質食資源) 戻る 次へ プロジェクト2コラム(1) |