研究内容

プロジェクト4(2)

 研究の背景の項でご紹介したように、低タンパク質食を給餌した動物では、IGF産生・分泌量が低下し、特に筋肉のIGFシグナルが遮断されるためタンパク質同化の抑制が起こって、成長期には動物の成長の遅滞が、成長期以降は体から窒素の損失が起こることになります。この際、インスリンシグナルはどうなっているのでしょうか?実は、低タンパク質給餌している動物では、インスリンの血中濃度が低いにもかかわらず、血糖値は正常でした。その代わり、肝臓には脂肪の蓄積が観察されます。詳しく調べてみると、低タンパク質食でタンパク質代謝が低下するためにエネルギー消費が下がり、エネルギー源としての糖が余剰となりますが、肝臓ではインスリンシグナルを何らかの機構で増強してインスリン感受性を上げ糖の利用をさかんにし、結果として糖を脂肪にして蓄積することがわかってきました (図21)。 この際肝臓では、低タンパク質給餌によりIRS-2の量が上昇することによりインスリンシグナルが増強されています。低タンパク質栄養状態の子供はクワシオルコールという病態に陥り、肝腫大を引き起こすことは広く知られていますが、私たちは、この肝腫大は私たちが見出したこのメカニズムによるものではないかと考えています。更に驚いたことに、筋肉では、IGFシグナル系はmTORというシグナル系下流で抑制されているのですが、インスリンの初期シグナル系はむしろ増強され、その結果、糖取り込みも上昇していることが明らかとなりました。これは、GH高発現トランスジェニックラットで観察されたように、他の臓器で糖利用が減少すると、血中の糖を取り込んで肝臓に貯蔵するという補償作用が働いているためと説明できます。これまで飢餓をずっと経験してきた動物の緻密な臓器間連携による代謝制御ということもできるかもしれません。

 一体、このような臓器間連携というのは、何が刺激になって、どういう仕組みで起こっているのでしょうか?これも私たちが興味を持っているテーマです。

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図21 低タンパク質栄養状態での臓器連携による代謝維持機構

 低タンパク質を給餌された動物では、筋肉でのIGF活性が抑制されタンパク質同化が阻害、そのためエネルギー消費が減少する。しかし、その一方で低タンパク質栄養状態は、肝臓(同時に筋肉も)のインスリンシグナルを増強し、インスリンに対する感受性を上昇させる。エネルギー消費が減少したために余剰となったグルコースは肝臓などにとりこまれ、インスリン刺激依存的に活性化されている脂質合成系により脂質に変えられ、肝臓に脂質蓄積が起こる。タンパク質栄養の変化を糖・脂質代謝を利用してエネルギーの恒常性を維持する機構ということができるが、どのようなシグナル伝達系により、肝臓でのインスリンシグナルが増強されるかは、今後の課題である。一方、絶食では、これとは異なる生体反応が起こる。

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