研究内容
プロジェクト3(1)
IGFやインスリンの新しい細胞内シグナル修飾機構を見つける
これまでに、IGF-Iレセプターやインスリンレセプター、IRSといったシグナル分子が、セリン/スレオニンリン酸化修飾され分子のコンフォメーションが変化する結果、レセプターキナーゼ活性が抑制される、あるいはIRS-1のチロシンリン酸化が抑制されるなどが報告されています。先に述べたように、私たちも、セリン/スレオニンリン酸化により、IRS-1あるいはIRS-2のIGF/インスリン依存性チロシンリン酸化が修飾されることを見出しています。このように、セリン/スレオニンリン酸化は、IGF/インスリンの細胞内シグナル修飾機構の一端を担っていると考えられます。既に、IRS-1については、多くの細胞外因子の刺激に応答してリン酸化されるセリン/スレオニン残基が数多く決定されており、この修飾によって、レセプターキナーゼによるチロシンリン酸化が抑制される、チロシンリン酸化IRSへのシグナル分子の相互作用が阻害されることなどが示されています (図16)。 しかし、IRSは多くの細胞外因子の情報の合流点となっていることから、同時にどのようなセリン/スレオニン残基がリン酸化されるのかは、今後の課題です。また最近になり、セリン/スレオニンリン酸化ばかりではなく、IRSにはアセチル化やメチル化などの化学修飾も起こることが明らかになってきています(また、IRSにはアセチル化酵素やメチル化酵素も結合することがわかってきています)。このような背景のもと、現在、私たちは、IRS-1だけではなく、IRS-2やその他のシグナル分子について、いろいろな細胞外因子で刺激した際や種々の生理状態で、どのような分子内修飾が起こっているのかを明らかにしようと研究を進めています。
IRSには多くのセリン/スレオニン残基があり、種々の細胞外因子が活性化するシグナル系によってリン酸化されることが知られている。これらの修飾により、IRSとIRSAP (IRS-associated proteins) の相互作用、IRSの分解、インスリン/IGF依存性チロシンリン酸化およびIRS下流のシグナルが調節されていると考えられる。この図では、いろいろな細胞外因子刺激に応答したIRSのリン酸化部位、私たちが同定したものも含めたIRSAPがIRSと相互作用する部位を示した。IRSは、リン酸化だけではなく、アセチル化、ニトロ化、メチル化なども起こっている可能性が示されている。このような分子修飾は、IRSのみならず、IGF/インスリンシグナル系の他の分子にも起こっており、シグナル分子の修飾と機能の関連を明らかにすることは、今後の重要な研究テーマの一つである。
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