研究内容
肝臓に脂肪が蓄積するメカニズムの解明
アルギニン制限食では肝臓に脂肪が蓄積する
前述した様に、低タンパク食をラットに給餌すると成長遅滞だけでなく、肝臓や骨格筋に脂肪が蓄積し、皮下脂肪の肥厚や内臓脂肪の増加など体の脂質代謝が変化することを明らかにしてきました。さらに、低タンパク食によって誘導される様々な表現型に関与しているアミノ酸を同定するために、一つのアミノ酸のみを制限した食餌を作成して、肝臓に含まれる中性脂肪量を測定した結果、アルギニンのみを制限した低アルギニン食を給餌すると肝臓に脂肪が蓄積しました。この結果は、アルギニンの摂取は脂肪肝を治す可能性を示しています。そこで全てのアミノ酸が制限された低アミノ酸食にアルギニンのみを添加してみましたが、脂肪肝は治りませんでした(Nishi et al. Sci. Rep. 2018)。このように、残念ながらアルギニンを十分に摂取しさえすれば脂肪肝は治るわけではないことがわかりました。
低タンパク食と低アルギニン食では肝臓に脂肪が蓄積するメカニズムが異なる
肝臓に脂肪が蓄積するメカニズムとして、次の4つの可能性が考えられます。1)肝臓内での新規脂肪合成が増加する、2)肝臓内での脂肪分解(β酸化)が抑制される、3)肝臓への脂肪取り込みが増加する、4)肝臓からの脂肪分泌が抑制される。低タンパク食(低アミノ酸食)および低アルギニン食では肝臓に脂肪が蓄積することがわかっていますので、二つの脂肪肝形成モデルにおいて上記4つの活性を調べてみました。その結果、低タンパク食(低アミノ酸食)を給餌したラットの肝臓では新規脂肪合成が増加していましたが、低アルギニン食を給餌したラットでは新規脂肪合成は亢進していませんでした。一方で、低アルギニン食を給餌したラットでは肝臓からの超低密度リポタンパク質(VLDL)の分泌が阻害されていましたが、低タンパク食給餌ではこのような現象は認められませんでした。このように低タンパク食と低アルギニン食はどちらも脂肪肝を形成しますが、脂肪が蓄積するメカニズムは全く異なることが明らかになりました(Otani et al. Nutri. Metab. 2021)。
血中アミノ酸プロファイルの変化が脂肪肝を誘導する
食餌から摂取したアミノ酸組成の違いは血中のアミノ酸濃度のパターンを変化させることが予想されます。そこで、低アルギニン食を給餌したラットの血中のアミノ酸濃度を測定したところ、アルギニンのみを制限しているにも関わらず、メチオニンなどのアミノ酸濃度が増加しており、血中のアミノ酸プロファイルが食餌のアミノ酸組成によって複雑に制御されていることがわかりました。さらに、食餌によってこの血中アミノ酸プロファイルを改変することで脂肪肝は抑制されました。この結果から現在では脂肪肝形成は血中のアミノ酸プロファイルの悪化が原因となって誘導されていると考えています。
骨格筋に脂肪が蓄積するメカニズムの解明
リジン制限食では骨格筋に脂肪が蓄積する
一つのアミノ酸のみを制限した食餌を作成して、骨格筋(胸最長筋)に含まれる中性脂肪量を測定した結果、リジンのみを制限した低リジン食を給餌すると骨格筋に脂肪が蓄積しました。この結果は、リジンの摂取は骨格筋への脂肪交雑を治癒させる可能性を示しています。そこで全てのアミノ酸が制限された低アミノ酸食にリジンのみを添加してみましたが、骨格筋への脂肪交雑は抑制されませんでした。このように残念ながら、リジンを十分に摂取しさえすれば骨格筋への脂肪交雑が抑制されるわけではないことが明らかになりました(Goda et al. J. Biol. Chem. 2021)。
血中アミノ酸プロファイルの変化が骨格筋への脂肪蓄積を誘導している。
低リジン食を給餌したラットの血中のアミノ酸濃度を測定したところ、リジンのみを制限しているにも関わらず、スレオニンの血中濃度が増加しており、血中のアミノ酸プロファイルが食餌のアミノ酸組成によって複雑に制御されていることがわかりました。さらに、リジンとスレオニンを同時に制限した食餌を給餌することで骨格筋の脂肪量は抑制されました。この結果から現在では骨格筋への脂肪交雑は血中のアミノ酸プロファイルの悪化が原因となって誘導されていると考えています。
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