研究背景

研究背景2

IGF/インスリンシグナルの修飾がなぜ重要か?


IGFやインスリンが標的細胞で働けない仕組み

 栄養状態が悪い時になぜ動物の成長が遅滞するのか、私たちは内分泌学的観点からこのメカニズムの解明を進めてきました。そして、栄養状態が「悪い」場合には、肝臓のIGF-I mRNA量が減少し、これを反映して血中IGF-I濃度が低下する。更に、この栄養状態の悪化、そしてタンパク質異化を促進すると報告されているグルココルチコイド・グルカゴンなどの血中濃度の上昇により、IGFBP-1およびIGFBP-2遺伝子の発現が促進され、血中IGFBP-1およびIGFBP-2濃度が著増する。IGF-Iは増加したIGFBP-1と複合体を形成し、このIGFBPがIGFをクリアランス、逆にIGFの寿命を延ばすIGFBP-3量が減少する結果、IGF-Iの生理活性が抑制され、動物の成長の遅滞が起こることを明らかにしてきました (図5)。 このように血中IGF-I濃度の低下が成長遅滞の原因と考えられてきましたが、栄養状態が悪い動物に過剰なIGF-Iを投与しても動物の正常な成長が起こりませんでした。また、II型糖尿病のモデル動物では、一般に血中インスリン濃度は高いにもかかわらず、標的細胞ではインスリン活性を発現することができません。このように、IGF/インスリンシグナルが、生理状態に応答して標的細胞内でも修飾され、その結果生理活性が調節されていることがわかります。

 このように、IGFやインスリンといったホルモンの濃度も生体の置かれた状況をモニターして決められていますが、同時に細胞内シグナルも状況の変化に応答してコントロールされ、その生体の状態に最も適した強さのホルモン活性が発現、結果として生体内外の状況に応じた成長や代謝制御が可能となっているわけです。

図を別windowで開く
図5 種々の生理状態におけるIGF生理活性の制御:標的細胞におけるIGFシグナル修飾の重要性


IGFやインスリンの特定の生理活性が標的細胞で発現する仕組み

 IGFやインスリンが広範な生理活性を発現することは先に述べたとおりです。しかし、これらの生理活性は、正常な状態では、正しい組織に正しいタイミングで、最も適した生理活性が発現する必要があります。そのためには、標的細胞が置かれた状況によって、IGF/インスリンシグナルが修飾され、特定の生理活性を発現するメカニズムが存在していなければならないはずです。

研究背景:目次 研究の背景1(3)  戻る     私たちの研究プロジェクトへ